鉄筋コンクリート造一部鉄骨造 地下1階 地上4階 塔屋1階
東京での生活が中心となり,しばらくはマンション住まいであったが,田舎育ちの家内と僕は都内のマンション暮らしはいささか住みづらく感じていた.家内の強い希望もあって土地付きの建物探しが始まった.家内が見つけた港区伊皿子坂の築40年の小さなビルは,まるで過去を消されたかのように建物の履歴に関して痕跡がなくなっていた.持ち主に,手持ちの建築図書一式をお借りしたところ,スケッチ程度の平面図以外ない状態であり,「検査済証が下りなければ解約する」という条件の下,着手金を払い,調査を開始した.既存建物調査は,基礎やコンクリート強度等の詳細調査を行い,リファイニングできることを確認し,本契約に移行し,自らリファイニング建築の施主となることになった.ただ,調査費は僕の方で負担したので,もし本契約に移行しなければ250万円が無駄になるリスクがあったが,前に進まなければ何もできないので,大きな決断となった.実施設計に移る中,行政協議等では,通常通り僕は正面突破を試みた.構造図,計算書等がないので安全確認ができないということから,基礎躯体を含めた全数調査を行い,構造図および意匠図を復元した.構造躯体の調査や現状把握は,首都大学東京の芳村學教授,北山和宏教授,高木次郎准教授などより,アドバイスを頂き大学の頭脳を総動員して,四本柱の単純ラーメンに対して,柱の補強かブレースによる補強か,袖壁補強を行うかなどなどの検討を行った.そして,耐震改修促進法の認定を受け,既存構造に対する安全証書を取得し,確認申請を提出した.その他,再生ならではの法解釈として,新築当時からの法変遷により生まれた「既存不適格の緩和」と「新法適用による緩和」という新旧ふたつの緩和事項を同時に適用している.自らの家であるので,環境的な試みができないかと首都大学東京の須永修通教授の指導を受け,メゾネット住宅を利用した通風,外断熱,屋上緑化等を行った.結果は,想像以上の成果があがっている.また,構造的に建築の長寿命化を目指す手法として,躯体の中性化の進行を抑制するため,既存コンクリートの外部を外断熱による外装,内部を内断熱し,サンドイッチする方法を取った.これは,躯体保護の他,環境に対する2次的な効果があり,外気温と湿度の影響を受けない調整機能が働き,快適な住空間をつくることができた.都市住宅としての機能は,十分果たしているのではないかと考えている.港区では,補助金制度が充実しており,この制度を全て利用することを申請してみた.耐震診断,耐震設計,エコキュート,高反射,屋上緑化,耐震補強,雨水流水,本事業に合う,補助金申請を可能な限り全て行った.結果,工事金額の約12%を取得することができた.建物は無事竣工し,既存不適格ながら検査済証も取得した.このことで新たな不動産価値を得ることができたと確信している.リーシングについても,ふたつの貸し室全てに借り手がつき,収支計画通りの返済が行われている.
今回,自分自身を実験としてでき,またクライアントの苦しみも喜びも,味わうことができた.そのことで,庶民にとって手の届く都市住宅としてのモデルとして,さらに既存ストックの都市問題に対してひとつの回答ができたのではと考えている.